【連載】作家asamiru日常シリーズ作品紹介Vol.2

2019/07/07 by

今回も、作家asamiruさんの「日常シリーズ」作品紹介第2弾として、10点の作品をご紹介いたします。

asamiruさんはこれまでにも何気ない風景を描いてこられましたが、この「日常シリーズ」では、身の回りの日用品や食べ物、動植物など、あらゆるものがモチーフとなっており、それらはすべて2色の水彩のみによって描き出されています。

asamiruさんによる安らぎの世界をどうぞお楽しみください。

 

 

ぶどう

上から伸びる茎に沿って実を連ねる一房のぶどう。その丸い実は一つ一つ調子が異なり、光を受けて個性豊かに変化している。様々な表情を見せつつも、茎の上部を避けるようにして実り、まとまりがある。瑞々しさが伝わってくるその姿からは、見ているだけで甘酸っぱい味がしてきそうである。球体と線がスラッとした形を作る青い果実は、力強い赤と大きな丸い形が特徴のりんごと比べて、色や形が対照的で、魅惑的な印象を与えている。

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トラの置き物

淡い赤に青い縞模様が映える、撤去されたトラの遊具。丸みを帯び、つやのある身体と、間の抜けた表情には、野生の猛々しさはなく、悲哀に満ちた愛らしさを感じる。シャープな縞模様を纏い、天に向かって吠える姿は勇ましいが、ミルクをねだるトラの赤ちゃんのようにも見える。かつて子どもたちの人気者として公園で栄華を極めたオブジェは、平穏な「日常シリーズ」の世界における王者として、堂々と君臨している。

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ハンバーグ

ソースのかかったハンバーグステーキは、平皿の薄い赤色と付け合わせの野菜の青色によって、より存在感が際立てられている。褐色の焼け目のあるその姿は、多くの人にとってどこか懐かしい定番の一品であろう。ボリューム満点なメインディッシュは、いまにも肉汁が溢れてきそうである。夕飯の献立を左右しかねないこの一皿は、作家の平穏な世界観とよくマッチしている。

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メジャー

結んでまとめられた様が、淡い陰影をつけて描かれたメジャー。採寸の際にその値を知らせる目盛りと数字は、非常に細かく描き込まれ、裏面の赤い目盛りまではっきりと確認できる。巻き取り式でないメジャーの結ばれた様子からは、素材の柔らかさだけでなく、それが日頃から使い込まれたものだとわかる。その精密な目盛りが示すのは努力の成果か、はたまた冷酷な現実か。

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ひも

赤い線のみによって構成された抽象画のようなひも。メジャーと比べて、わずかな濃淡があるのみというシンプルさで、線の重なりは前後関係を曖昧にしている。おおまかにまとめられた束には筆の動きがそのまま残され、つい目でたどってしまう。メジャーのように精緻に再現されているのもよいが、この簡潔さは、取るに足らないひもというものの本質を表しているようで、魅力的である。

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ドーナツ

褐色のチョコレートドーナツは、青白い砂糖でポツポツとコーティングされている。見るからに甘そうな丸いスイーツは、砂糖の星屑が浮かぶ宇宙のような雰囲気で、真ん中の空間に吸い込まれる感覚に陥る。また、深い褐色とシンプルな円は書道の筆跡を思わせ、たちまち、お茶目な師範代が弟子に隠れてこっそり食べるおやつにも見えてくる。

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急須

俯瞰で描かれた急須は、つまみや口、柄の再現性の高さと、どこか懐かしい素朴な色合いに、安心感さえ覚える。青白く滲んだ釉の上には濃い青で大小の線が絵付けされており、色彩の統一感が美しいため、陶磁器としての観賞にも堪える。これで淹れるお茶は、疲れきった身体に染み渡ることだろう。ホッと一息つける時間は、忙しい現代人にとって必要な癒しのひとときなのかもしれない。

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毛玉とり

木製の板に細かい毛束が等間隔で配された、毛玉を取るブラシ。持ち手が湾曲した橙色の板は、木目まではっきりと再現され、上部の青い毛束と、下についた赤いひもは、質感、色、形が対比されているようで美しい。しゃもじやくしのような日用品の居心地も感じられるが、祭具のような特殊な霊験をも放っている。衣服の毛玉を取り、見た目をよくしてくれるこの道具は、明日のおしゃれを叶える魔法の神器である。

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植物

小さな植木鉢に植えられた多肉植物。光沢のある青一色の鉢からは、赤い葉がいくつも伸びている。葉は丸い形のものがいくつも重なり、小さな茎に群がるようにして生えている。先へ行くほど濃くなる赤の滲みと、多肉ならではの厚みは、実に生命感を感じさせる。また、無機質な青い鉢と有機的な葉の重なりは、互いの存在を引き立てあっている。

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しか

足を畳み、首をべったりと地面につけたしかは、安心しきった様子で眠りについている。シリーズの中でもきわめて淡い本作は、森の霞に溶け込んでいるかのような神聖さを漂わせる。美しい流線形の身体にそびえる力強い角は、奥のものがより淡く、幻想的な空気感を捉えている。神聖な生物の安らぎは、どこか永遠の眠りのような静けささえ感じさせる。

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水彩の表現を駆使するasamiruさんによって、ありふれた日常の中から見出された美しい作品たちはいかがだったでしょうか。平穏なオブジェクトが2つの色で再現されることで、ときに非日常的な感覚にも包まれることが、このシリーズの特徴と言えます。

asamiruさんの個展「まどろむまでに」は終了してしまいましたが、「日常シリーズ」は引き続きPicaresqueにて取り扱わせていただいておりますので、是非店頭でご覧ください。

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