あらいいづみ 作品集「いのちのかたち」紹介記事
ハワイに住む人たちは絵を買わない、と、ハワイでギャラリーを営むアメリカ人から聞く。
その理由は日本と少し違っていて「ハワイでは車を10分も走らせれば魂に必要な美しい景色を見ることができるから」とのこと。
だから、ハワイを拠点に活動するアーティストたちは、その土地ならではの美を作品に昇華し、 ニューヨークやベルリン、パリで売るのだという。
夕暮れの山林の静けさに驚かされるのは、麓のコンビニに立ち寄った時だったりする。
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あらいいづみさんは、自身がなぜその絵を描いたか思い出せないと言う。それはもしかすると、 私たちが幼子の時に受け取った愛の言葉や、友と離れ離れになる悲しみ、 誰かに向けて一生懸命書いたはずの手紙の内容を上手く思い出せないのと同じことかもしれない。
身体と同じように、記憶にも新陳代謝が起きる。
10年前の私の身体と記憶を構成する事物は、 10年後の今の私とすっかり入れ替わっている。
それは私たちが願わずとも起こる現象であり、望んで生まれてきたわけでも、 死んでいくわけでもないのと同じである。
私たちは日々、どれだけ魂に必要な美しい景色と出会えているだろうか。 そして、その時の感覚をいつまで心に留め、自身のものとして大切に守れるだろうか。
私の魂が確かに歓喜していた、今はもう思い出せないあの人の笑い声が形になって現れたようで、 私はあらいいづみさんの絵の前で時々涙を禁じ得ないのである。
だから、私はあらいいづみさんの絵を見つめ続ける。
この本が「わたし」の幸福な思い出の姿として愛され続けることを祈って。
2018.10.1 松岡詩美
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この度、2018年開催の「あらいいづみ 個展 いのちのかたち」に際して刊行された作品集 「いのちのかたち」を、再入荷いたしました。
このシリーズでは、繊細な水彩で描かれた作品のすべてが「いのちのかたち」と名付けられ、ひとつの世界を作り出しています。
あらいいづみさんの作品は、単なる抽象画とは形容しきれません。 淡い水彩が生み出す有機的なフォルムは、注意深く眺めることで具体的なイメージとして浮かび上がってきます。
また、個々の作品を目の前にしたとき、その人の心の底にある曖昧な記憶や感情が、具体的な形をもって現れるでしょう。 それは、淡い青春の思い出かもしれませんし、胸を痛めた切ない記憶かもしれません。
それぞれの人の心を映し出す鏡となる作品たちは、あらゆる感情を受け止め、七色の輝きを放ちます。
集合。離散。整列。誕生。
規則的な輝きを放ついのち。
上昇。下降。反復。継承。
無限に続く連続的ないのち。
接続。分断。追憶。郷愁。
振り返る遥か遠くのいのち。
拡散。収束。炸裂。開花。
弾け飛ぶ激しいいのち。
享受。放出。浮遊。寛容。
すべてを受け止める巨大ないのち。
様々な顔を見せる「いのちのかたち」は、どれも繋がりや変化というイメージを思い起こさせるものとなっています。
その中で、激しさや穏やかさが個性となって現れています。
筆の運びはいのちをかたち作り、繋げ、変化させる。
滲みによる混色はあらゆる感情を織り交ぜ、点描による重色は一生を輝かせる。
色は、いのちが生きた証。
また、この作品集に添えられたことばの数々は、あらいさんの世界をたどる道しるべとして機能しています。
あらいさんは、作品を観る人にはそれぞれの捉え方をしてほしいと語っています。
作品集のことばをひとつの手がかりとして自身の感情を言語化することも、 あらいさんの作品だからできることと言えるでしょう。
我々人類を含む全てのいのちは、肉体を超えてひとつに繋がり、肉体の生死を介して循環する。
我々はひとつのいのちであり、そして個々のいのちは、一瞬のうちにまばゆい輝きを放つ。
その輝きは、誰かのいのちを照らすひかりとなる。
そんな一瞬の輝きに注目し、想いを巡らすことが、芸術のひとつのあり方なのかもしれません。
これらの作品を前にしたときに抱く感情は、人それぞれだと思います。しかし、作品によって自分自身の存在を意識することは間違いないでしょう。
この本が多くの人のもとに届き、皆さまのいのちをいっそう輝かせることを、心よりお祈り申し上げます。
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『あらいいづみ作品集 いのちのかたち The shapes of life Idumi Arai』
出版:slow boat